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取引相場のない株式(非上場株式)の承継 – 事業承継と資産承継の観点からの留意点
【免責事項】 本コラムの内容は、執筆時点の法令・ガイドライン等に基づき、一般的な情報提供を目的として作成されたものです。特定の事案に対する法的助言を構成するものではありません。 法律や実務上の運用は随時変更される可能性があり、内容の正確性や完全性を保証するものではありません。本コラムの情報に基づくいかなる行動についても、当事務所は一切の責任を負いかねます。具体的な判断にあたっては、必ず個別の事実関係に基づき、弁護士等の専門家にご相談ください。
1. はじめに
取引相場のない株式(非上場株式)について、会計検査院による、現行の評価方式が納税者間の公平性を損なっている旨の指摘に基づき、評価制度の見直しが検討されています。2026年4月20日には、取引相場のない株式の相続税評価について、相続税法の時価主義の下における「適正な評価制度の在り方」を検討するとの目的で、第1回の有識者会議が開催されました(国税庁・「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料)。
こうした動きを受け、事業承継を検討している中小企業オーナーから「今のうちに株式を動かすべきか」「評価が変わる前に贈与した方がよいか」といったご相談が増えています。
しかし、非上場株式の承継は、経営権の承継と資産の承継をどのように法的に設計するかという点を抜きに語ることはできません。
本稿では、非上場株式の承継において押さえるべき法的な論点を整理します。
2. 非上場株式が持つ性質の2つの側面
非上場株式は、会社の意思決定を左右する経営権そのものであり、誰がどの程度の株式を持つかが、会社の重要な方針決定を含む経営判断に直接的な影響を与えます。
例えば、株主総会の普通決議(役員選任・剰余金の配当等)には議決権の過半数が、特別決議(定款変更・合併等の重要事項)には3分の2以上が必要とされます。議決権の3分の1超を持つ株主は特別決議を単独で阻止できるため、後継者以外の相続人が持つ合計の株式比率がこの水準を超える場合、重要な経営判断が事実上の拒否権にさらされることになる可能性があります。
こうした性格から、非上場株式の承継は、以下の2つの側面を分けて設計する必要があります。
| 側面 | 問い | 問題が顕在化する局面 |
|---|---|---|
| 経営権の承継(支配の問題) | 誰が会社を支配するのか | 株式が複数の相続人に分散し、経営方針の対立・意思決定の停滞が生じる。 |
| 資産の承継(経済的利益の問題) | 誰が経済的利益を得るのか | 後継者への株式集中による他の相続人との不公平が生じ、遺留分トラブルが発生する。 |
3. 非上場株式を承継させる手法と親族間紛争を予防するための対策
(1)承継の具体的な手法
① 贈与・遺言による株式の集中
後継者への生前贈与または遺言による相続を通じて、一定数の議決権を後継者が保有できる構造を設計します。他の相続人に対しては、株式以外の資産(不動産・預貯金・生命保険金等)で配慮することで、株式の分散を回避します。
株式を後継者に少しずつ贈与することで段階的な承継を実施することができます。遺言による承継を行う場合は、相続の発生時点まで現オーナーが経営をコントロールすることが可能であり、また、状況に応じて遺言の内容を撤回・変更することができます。
② 種類株式の活用
- 議決権制限株式(無議決権株式):後継者には通常の議決権株式を集中させ、他の相続人には議決権を制限した株式を付与します。相続人は経済的な取り分(配当等)を確保しつつ、経営への介入は制限されるため、経営権の分散を防ぎながら親族間の公平感を維持できます。
- 拒否権付株式(黄金株):重要な経営判断について拒否権を持つ株式を現オーナーが保有することで、現オーナーが経営コントロールを維持することが可能となります。
- 役員選任権付株式:現オーナーが役員選任する権利を持つことで経営をコントロールすることが可能となります。
- 配当優先株式:経営に関与しない親族株主に配当優先株式を付与することで、経済的利益の分配を確保しつつ、議決権の集中を維持することができます。
③ 株式の集中に向けた会社法上の手続
既に株式が複数名に分散している場合には、以下の手段によって株式を整理することも選択肢となります。
- 自己株式取得:会社が特定の株主から株式を買い取ることで、その株主の持分を消却・減少させます。財源規制(分配可能額の範囲内)があるため、事前の財務確認が必要です。
- 相続人に対する売渡請求(会社法174条以下):過去の相続により株式が分散している場合であれば、特別決議により一定の事項を決定する相続人に対する売渡しを請求することが可能です。定款への事前の規定が必要であること、相続発生後1年以内の行使期限があることに注意が必要です。
④ 民事信託(家族信託)の活用
信託契約の設計次第で、「議決権=受託者(後継者)」「受益権(配当・売却益)=オーナーや他の家族」などと、経営権と経済的利益の分離を柔軟に実現することができます。
具体的には、受託者である後継者に株式を信託譲渡した上で受託者に対する議決権行使の指図権を委託者である現オーナーに留保することもできます。現オーナーの年齢・体調に不安があるような場合には、指図権の行使可能な期間を設定して、当該期間の経過後に指図権が消滅するように設定することも考えられます。
この際、存命中は現オーナーを受益者とし、相続発生後は(後継者以外に相続人がいる場合は)後継者以外の相続人を受益者とする(その他株式以外の財産を取得させる)ことで、当該相続人の遺留分に配慮するよう設計することも可能です。
しかしながら、信託は、契約時点で効力が発生するため、遺言とは異なり、原則として撤回・変更できないことに留意が必要です。
(2)親族間の紛争を予防するための対策
先述のとおり、後継者への株式集中は、他の相続人との遺留分の問題を必然的に伴います。遺留分は、一定の相続人に法律上保障された最低限の相続分であり、侵害された場合には金銭による支払請求(遺留分侵害額請求)が可能です。後継者が多額の遺留分の支払いを余儀なくされた場合、企業の資金繰りに深刻な影響を与えるおそれがあります。
遺留分対策の主要な手段として、以下が実務上検討されます。
| 手段 | 内容・実務上のポイント |
|---|---|
| ① 遺留分放棄 | 相続開始前に推定相続人が家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄します。他の相続人の自発的な同意が必要であり、強制はできません。放棄と引き換えに生前贈与等による配慮が行われることが実務上は通常です。 |
| ② 「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律と遺留分に関する民法の特例」(円滑化法)の活用 | 後継者が推定相続人全員の合意・経済産業大臣の確認を経ることで、①非上場株式を遺留分の算定基礎から除外する合意(除外合意)、または②価値を合意時点で固定する合意(固定合意)を行います。後継者への集中と遺留分対策を両立する実務上有効な制度です。 |
| ③ 遺産に含まれない財産の活用 | 生命保険金・死亡退職金は原則として遺産に含まれず、遺留分の算定基礎にも算入されません。後継者以外の相続人への金銭的配慮の手段として活用できます。ただ、保険金等の額が著しく多い場合は特別受益類似の問題が生じうる点に留意が必要です。 |
| ④ 遺言による経済的利益の調整 | 遺言において遺留分相当額の代替財産(不動産・現金等)を指定し、支払期限・負担の順序を明記することで、相続開始後の紛争リスクを低減します。後継者の資金繰りへの影響を一定程度コントロールできます。 |
| ⑤ 種類株式の活用(再掲) | 他の相続人に配当優先株式(無議決権の特約付き)を付与することで、経済的な取り分を確保しつつ遺留分侵害の規模を抑制する効果が期待できます。 |
4. ファミリーガバナンスの視点
これまで述べてきたように、非上場株式の承継においては、様々な法的手段が用いられますが、事業承継の問題は個別の法的文書を作成すれば完結するものではなく、特にファミリー企業においては、世代が進むにつれて親族の人数が増え、経営への関与度が異なる多様な株主が生まれます。
その結果、後継者として経営を担う者、株式は保有するが経営には関与しない者、配当や資産価値に関心を持つ者など、立場の異なる親族が併存することになります。
このように利害関係が複雑化し、さらに、年月の経過に伴って創業理念や価値観が薄れていく中で、当初設計した承継スキームを長期的に機能させるためには、ファミリー企業における家族と事業、資産の関係を整理し、家族内の意思決定や合意形成の枠組みを整える仕組みとして、ファミリーガバナンスを整備することが重要となります。
ファミリーガバナンスは、法的手段と競合するものではなく、法的文書に落とし込むべき内容を整理し、その運用を支えるための補完的な枠組みと位置づけることができます。
ファミリーガバナンスの構築において、実務上活用される主な手段は以下の通りです。
| 手段 | 内容・役割 |
|---|---|
| ファミリー憲章 | 家族としての価値観、創業理念、後継者の選定基準、ファミリーメンバーの入社・処遇基準、株式の取扱方針などを文書化するものです。直接的な法的拘束力を持たない場合も多いですが、株主間契約、定款変更、遺言、信託などの前提となる「合意の出発点」として機能します。策定プロセス自体が、家族間の対話と合意形成を促す点にも意義があります。 |
| 株主間契約 | ファミリー株主間で、株式の処分制限、議決権行使の方針、配当方針、役員選任手続などについて合意して明文化するものです。ファミリー憲章で共有された方針を、具体的な権利義務に落とし込む役割を持ちます。 |
| ファミリー評議会 | 株主総会や取締役会とは別に、家族としての重要事項を定期的に協議する場です。後継者選定、株式の取扱い、配当方針、家族内の情報共有などについて対話を重ねることで、ルールへの納得感と一体感を形成します。 |
承継設計は、遺言や契約を作成した時点で終わるものではありません。世代を超えて事業と資産を安定的に承継していくためには、法的文書による設計と、家族内の合意形成・運用ルールの整備を組み合わせることが重要です。
5. おわりに
非上場株式の承継の設計において最も重要なことは、「早めに始めること」です。どのような内容に設計するにせよ、当事者が自由に意思決定できる段階でなければ、実行が困難となります。
築地かなめ法律事務所では、非上場株式の承継について、経営権の設計・遺留分対応・株主間契約・ファミリー憲章の策定・民事信託の活用など、法的側面からの全体設計を支援しています。税理士・司法書士・金融機関との連携も含め、総合的なサポートを行っています。
「まず現状を整理したい」という段階からのご相談も歓迎しております。
著者情報

弁護士:藤井 健一
築地かなめ法律事務所 代表弁護士。
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