コラムInsights
価格転嫁・支払条件・物流商慣行に関する新ルール – 改正優越ガイドライン・物流特殊指定・支払告示の実務ポイント
【免責事項】 本コラムの内容は、執筆時点の法令・ガイドライン等に基づき、一般的な情報提供を目的として作成されたものです。特定の事案に対する法的助言を構成するものではありません。 法律や実務上の運用は随時変更される可能性があり、内容の正確性や完全性を保証するものではありません。本コラムの情報に基づくいかなる行動についても、当事務所は一切の責任を負いかねます。具体的な判断にあたっては、必ず個別の事実関係に基づき、弁護士等の専門家にご相談ください。
1.はじめに
公正取引委員会は、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁、支払条件の適正化、物流に関する商慣行への対応を目的として同年3月12日に公表していた各改正案について、意見公募手続および公聴会を経て、「技術的修正をした上で」、2026年6月17日、正式版を公表しました。
対象となるのは、以下の4つです。
- 特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合等の特定の不公正な取引方法(2026年6月18日付。改正物流特殊指定)
- 製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法(2026年6月18日付。支払告示)
- 「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」の運用基準(2026年6月18日付。支払告示運用基準)
- 優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方
(改正物流特殊指定および支払告示は、2027年4月1日から施行されます。)
本コラムは、価格転嫁・取引適正化に関する解説の続報として、今回公表された正式版を踏まえ、実務的なポイントを幾つか整理して説明します。
2.正式版の概要
正式版は改定案の方向性を維持したものとなっていますが、公募意見・公聴会における意見を踏まえた「技術的修正」を行った点の他、意見に対する公正取引委員会の考え方において重要な補足を示した点が含まれていますので、以下、実務的な留意点について整理してコメントします。
改正優越ガイドラインについて
(1)取引の対価の一方的決定
改定案では、優越的地位の濫用として独禁法上問題となる「取引の対価の一方的決定」に該当する想定例の一つとして、「取引の相手方が発注される前にあらかじめ発注数量を予測して生産しなければ納品期日に間に合わないような短納期発注(例えば、当日発注・当日納品)に応じることを前提とした発注を行い、取引の相手方である納入業者の生産コスト等が大幅に増加したにもかかわらず、通常の納期で発注した場合と同一の単価を一方的に定めること。」が挙げられていました。
しかし、上記に対しては、意見公募の段階で、「当日」という文言により、当日発注のような極端に急な発注でなければよいと曲解されかねないとの意見があり、結果として正式版では、該当する例示部分が削除されています。
このような経緯より、「取引の対価の一方的決定」として問題となり得る短納期発注は「当日発注・当日納品」のような極端な場合に限られず、業界・商品・製造工程等に照らし、受注者が事前の見込み生産や追加的な費用負担を余儀なくされるような発注も含まれる可能性があります。
(2)受領拒否
改定案では、優越的地位の濫用として独禁法上問題となる「受領拒否」に該当する想定例の一つとして、「天災や道路事情等、納入業者に責任のない事情により納期に間に合わない場合であるにもかかわらず、飲食料品の製造年月日から賞味期限までの期間のうち、製造年月日から最初の3分の1に当たる日までに商品を納品しなければならないという商慣行(いわゆる3分の1ルール)や、既に納品した商品の賞味期限等より1日でも前の賞味期限等の商品を納品することは認められないという商慣行(いわゆる日付逆転品の納品禁止)を理由に、納入業者と協議することなく、商品の受領を拒否すること。」という事例が挙げられていました。
しかし、意見公募手続を経て、正式版では、この事例について、「天災や道路事情等、納入業者に責任のない事情により納期や検査基準を満たすことができないものの、賞味期限には十分余裕がある商品の受領について納入業者から協議を求められたにもかかわらず」、いわゆる3分の1ルールや日付逆転品の納品禁止といった商慣行のみを理由として一方的に商品の受領を拒否する行為が「受領拒否」として問題となり得るという形で整理されました。
このような経緯からして、(正式版が協議記録の作成を直接義務付けるものではありませんが、)実務上は、協議の経過については逐次記録しておくことが望まれます。
改正物流特殊指定について
(1)特定着荷主が「特定発荷主の利益を不当に害すること」
① 荷役作業・附帯業務等に係る特定着荷主・特定発荷主間の合意
意見公募手続を経て、特定着荷主が、特定発荷主に、荷役作業・附帯業務等の「経済上の利益の提供」をさせ、当該提供の行為をした「運送を受託する事業者」に支払われるべき費用等が特定発荷主に生じる場合であっても、特定着荷主と特定発荷主との間で具体的条件をあらかじめ合意し、通常必要な費用を着荷主が負担する場合、または物品の対価にその費用が反映されている場合には、直ちに問題とはならない、との公正取引委員会の考え方が示されています。
ただし、この「合意」は実質的な意思の合致まで要求されており、内容・対価・費用負担について十分な協議のうえで特定発荷主が納得している必要があります。そのため、交渉経過を書面や電子メール等により記録することが重要となります。
② 「取引の相手方」の解釈
改正物流特殊指定第2項は、荷下ろし場面での荷待ち・荷役等の実態を踏まえ、発荷主との間で物品の販売等の取引関係にある者が、目的物たる物品の引渡しを受ける場合に、取引の相手方である発荷主に対し、その引渡しについて指示できる取引上の地位を利用して、運送事業者を通じた荷役作業・附帯業務等をさせることに対応するものと説明されています。
また、「取引の相手方」該当性は、実質的な取引条件の交渉・決定の有無も加味されるとされています。卸売業者を介していても、実質的に小売業者が取引条件を決めている場合には、小売業者が特定着荷主、製造販売業者が特定発荷主とされる可能性がある点には注意が必要です。
③ 運送の内容の変更・運送のやり直し
特定発荷主・「運送を受託する事業者」側に帰責事由がある場合には、特定発荷主に生じる費用・損失等を特定着荷主が負担せず、運送内容の変更・やり直しをさせたとしても、「特定発荷主の利益を不当に害すること」には該当せず、問題とならないとされています。
ただし、費用を負担せずに運送内容を変更させることが許容されるのは、特定発荷主の要請による場合、または運送開始前に発注内容との相違等を合理的に判断できる場合などです。運送後のやり直しについては、実際に発注内容との相違等がある場合などに限られます。いずれについても、許容されるのは一定の類型に限られ、個別の事案ごとに判断されることになります。
一方、不測の事態によりやむを得ず特定着荷主が特定発荷主に運送内容の変更・やり直しをさせたとき、特定発荷主・「運送を受託する事業者」側に帰責事由があるとはいえない場合であっても、それによって特定発荷主に通常生ずべき費用・損失等を特定着荷主が速やかに負担するときは、直ちには問題とならないとされています。
もっとも、運送内容の変更・やり直しに係る内容や対価等の条件を明確にして合意しておくことが必要となるため、着荷主側としては、追加費用の負担や条件変更に関する協議の記録を残すことが重要となります。
(2)「特定着荷主」・「特定発荷主」の要件
「特定着荷主」・「特定発荷主」については、資本金基準および従業員基準が設けられています。
もっとも、これらの規模要件に該当しない場合であっても、着荷主が発荷主に対して取引上優越した地位にあり、発荷主がこれに対して取引上劣った地位にある場合には、適用対象となり得ます。
支払告示・支払告示運用基準について
(1)製造委託等に係る代金の支払(手形・電子記録債権・ファクタリング)
支払告示は、製造委託等を行った委託事業者が、自己に対して取引上の地位が劣っている受託事業者に支払うべき代金を、給付の受領日等から60日経過後も支払わないことを、正当な理由がない限り禁止するものです。
公聴会資料では、手形払いは、支払告示上は問題とならないとの考え方が示されています。(もっとも、取適法の対象取引では手形交付が原則的に禁止とされています。また、産業界・金融界などで2026年度末までに手形の利用廃止に向けた取組が進められています。)
また、電子記録債権・ファクタリング等については、60日以内に金融機関から支払を受けられるようにする必要がある一方、受託事業者が代金満額相当の現金を実際に受領した状態までは求められず、長いサイトの支払手段については今後注視するとされています。
(2)60日超の支払が許容される例外(「正当な理由がある場合」)
支払告示では、上記の義務を定める本文に続けて、「ただし、当該代金を当該期間内に支払わないことについて正当な理由がある場合は、この限りでない。」との但し書きが置かれています。
この点、支払告示運用基準では、「正当な理由がある場合」の例として、「製造委託等をするに当たって、受託事業者との合意により支払条件を定め、その条件に従って代金を支払う場合」などが挙げられていますが、公聴会資料上に示された公正取引委員会の考え方によれば、上記の例の場合に「正当な理由がある場合」が認められるのは、取引の実態に即した合理的な理由に基づき支払条件を定める場合に限られます。従来からの契約慣行であることや、請求・支払い事務の便宜、単に代金額が製造委託日または給付受領日までに決定されていないこと等を理由として、給付受領日から60日を超える支払期日を定めることは、直ちに合理的な理由があるとは認められない可能性があります。
(3)支払告示の適用対象
支払告示運用基準では、適用対象となる受託事業者について、「委託事業者から製造委託等を受けた事業者(その取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていないと認められる者を除く。以下「受託事業者」という。)に対する委託事業者の行為について適用される。」としています。
取引上の地位が劣っていないかどうかは、取引依存度・市場における地位・取引先変更の可能性など、個別の事実関係を総合的に勘案して判断されるとしています。
もっとも、受託事業者の事業規模が委託事業者より小さく、支払告示に定める行為を受け入れている場合には、当該受託事業者の商品・役務が高度な希少性を有するなどの特段の事情がない限り、一般に委託事業者に対して取引上の地位が劣っていると判断される方向に働きます。
他方、事業規模が同等以上であっても当然に適用対象外となるわけではなく、取引依存度、市場における地位、取引先変更の可能性その他の事情が総合的に考慮されます。
まとめ
今回の正式版の公表を受けて、今後、サプライチェーン全体での価格転嫁、支払条件の適正化、物流に関する商慣行の問題に対する当局の対応が積極化していくことが見込まれます。
対象となる企業におかれては、優先順位を付けて、早めに社内運用の点検に着手することをお勧めします。
著者情報

弁護士:藤井 健一
築地かなめ法律事務所 代表弁護士。
関連カテゴリ
関連記事
-
2026-07-08知財・ノウハウ・データの「ただ取り」を防ぐ – 知財取引指針と契約書ひな形から見る取引実務のポイント企業間取引・契約法務 危機管理・不祥事対応 経済法関連
-
2026-06-30【Q&A】賃料増額を求められた場合の対応について企業間取引・契約法務 個人の紛争
-
2026-06-30個人データの取扱いを委託する場合における委託元企業の義務・漏えい発生時の事後対応企業間取引・契約法務 危機管理・不祥事対応
-
2026-06-04価格転嫁・支払条件・物流商慣行はどう変わるか — 優越ガイドライン改定案の実務ポイント企業間取引・契約法務 危機管理・不祥事対応 経済法関連
-
2026-05-14賃料増額請求を受けたときの法的対応 — 借地借家法の枠組みと交渉戦略企業間取引・契約法務 個人の紛争 危機管理・不祥事対応
関連取扱業務
カテゴリ一覧
お問い合わせ
ご相談・ご依頼をご希望の方は、まずはメールフォームよりご連絡ください。
内容を確認の上、追って日程調整等の連絡を差し上げます。
※お電話でのご相談は受け付けておりません。