【免責事項】 本コラムの内容は、執筆時点の法令・ガイドライン等に基づき、一般的な情報提供を目的として作成されたものです。特定の事案に対する法的助言を構成するものではありません。 法律や実務上の運用は随時変更される可能性があり、内容の正確性や完全性を保証するものではありません。本コラムの情報に基づくいかなる行動についても、当事務所は一切の責任を負いかねます。具体的な判断にあたっては、必ず個別の事実関係に基づき、弁護士等の専門家にご相談ください。
Q.
親から会社を継ぐ予定ですが、自社株の引継ぎでトラブルを生じさせないために事前に確認しておくべきことはありますか?
A.
非上場株式の承継は、単に株式の名義を親から子へ変更する手続ではありません。株式の財産価値、経営権、相続税評価、議決権、遺留分などが複雑に関係します。「株式評価額の把握」「経営権の安定」「相続人間の調整」を一体として設計することが重要です。
法的な基本枠組み
非上場株式には市場価格がないため、相続税・贈与税の計算では「取引相場のない株式」として評価されます。
その評価方法は、株式を取得する人が同族株主等に該当するか、会社の規模がどの程度か、会社が保有する資産や業績がどうなっているかなどによって異なります。会社の状況によっては、株式の相続税評価額が高額になることもあります。
一方、会社法上は、後継者がどの程度の議決権を取得するかによって、経営の安定性が大きく変わります。
一般に、議決権の過半数を安定的に確保すれば、通常の株主総会決議を主導しやすくなります。定款変更や組織再編など、株主総会の特別決議が必要となる事項まで安定的に決定できる体制を目指す場合には、3分の2以上の議決権が一つの目安となります。
もっとも、実際の決議要件は、定款の規定、株主総会への出席状況、議決権制限株式の有無などによっても異なるため、単純に持株比率だけを見ればよいわけではありません。
さらに、配偶者、子、直系尊属などの遺留分権利者がいる場合には、特定の後継者に株式を集中させることで、他の相続人との間に利害対立が生じる可能性があります。遺留分を侵害した場合、原則として、受贈者や受遺者に対する金銭請求である遺留分侵害額請求の問題となります。
承継プランを検討する際のポイント
実務上は、少なくとも次の事項を確認します。
- 現在の株主構成と定款
誰が何株を保有しているか、議決権割合はどうなっているか、株式に譲渡制限が付されているか。 - 株式の評価額と評価方法
現時点の相続税評価額はどの程度か。なお、税務上の評価額と、第三者間の売買や企業価値評価における株式価値は、必ずしも一致しません。 - 承継の方法と時期
遺言、生前贈与、売買などのうち、どの方法で、いつ株式を移すのが適切か。 - 他の相続人への配慮
後継者以外の相続人に対し、現金、不動産その他の財産をどのように配分するか。遺留分だけでなく、相続人間の納得感も考慮する必要があります。 - 納税資金・代償資金
相続税や遺留分侵害額請求などによる金銭負担が生じた場合に、後継者がどのように資金を準備するか。
実務上の注意点
節税だけを目的として株式の移転方法を決めてしまうことは避けることが無難といえます。
税務上有利な方法であっても、後継者に十分な議決権が集まらなければ、経営の意思決定が不安定になる可能性があります。反対に、後継者への株式集中だけを優先すれば、遺留分や親族間の不公平感を原因とする紛争が生じることがあります。
会社の状況に応じて、遺言、生前贈与、売買、種類株式、生命保険による納税・代償資金の準備などを組み合わせることが考えられます。ただし、それぞれに会社法、相続法、税務上の条件や留意点があります。
まずは、株主名簿、定款、決算書、親族関係図、主な個人資産の内容を整理し、会社法・相続法の観点と税務の観点を連携させながら、実行可能な承継計画を作成することが重要です。
