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食品流通の法的リスク — フードサプライチェーンの商慣行に対する公正取引委員会の独禁法上の考え方
【免責事項】 本コラムの内容は、執筆時点の法令・ガイドライン等に基づき、一般的な情報提供を目的として作成されたものです。特定の事案に対する法的助言を構成するものではありません。 法律や実務上の運用は随時変更される可能性があり、内容の正確性や完全性を保証するものではありません。本コラムの情報に基づくいかなる行動についても、当事務所は一切の責任を負いかねます。具体的な判断にあたっては、必ず個別の事実関係に基づき、弁護士等の専門家にご相談ください。
公正取引委員会は、2025年5月12日に「フードサプライチェーンにおける商慣行に関する実態調査報告書」を公表し、食品流通の現場における商慣行に関する独占禁止法(以下「独禁法」)・製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(旧下請法、中小受託取引適正化法。以下「取適法」)上の考え方を示しました。
本コラムでは、この報告書が示す内容と、食品流通に関わる事業者が今すぐ確認すべき実務上のポイントを整理します。
調査の背景
今回の実態調査は、食品ロス問題と独禁法・取適法上の問題意識という二つの課題意識から実施されました。
調査対象となった商慣行は、いずれも食品流通の現場で「業界の常識」として長年定着しているものです。しかし公取委は、そうした実態を認識した上で、なお独禁法・取適法上の問題を指摘しています。
問題とされた5つの商慣行
| 商慣行 | 概要 |
|---|---|
| ① 3分の1ルール | 製造日から賞味期限までを三等分し、最初の3分の1を製造業者が小売業者に納品しなければならない「納品期限」、次の3分の1を小売業者が店頭に陳列してよい「販売期限」、最後の3分の1を「賞味期限」とする慣行。賞味期限まで十分な余裕があっても納品期限を超えれば受領拒否される。 |
| ② 短いリードタイム | 当日発注・当日納品など、見込み生産なしには対応不可能な短納期を当然の前提とする慣行。納入業者に過大な生産・在庫・廃棄コストを強いる。 |
| ③ 日付逆転品の納品禁止 | 既納品より1日でも製造日付が古い(賞味期限が短い)商品の納品を認めない慣行。 |
| ④ 日付混合品の納品禁止 | 賞味期限の異なる商品を同一ロットで混合して納品することを認めない慣行。 |
| ⑤ 欠品ペナルティ | 理由を問わず欠品した場合に、販売機会損失を理由とする補償金の支払いを求める慣行。算出根拠が不透明なまま課されるケースも多い。 |
独占禁止法・取適法上の考え方
基本的な考え方:優越的地位の濫用
「優越的地位の濫用」(独禁法第2条9項5号)とは、取引上の地位が相手方に優越している事業者が、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に相手方に不利益を与える行為をいいます。
食品流通においては、多数の製造業者・卸売業者を相手に圧倒的な交渉力を持つ大手スーパーや量販店(小売業者)が、典型的な「優越的地位にある事業者」に当たります。こうした発注者が、以下のような行為を行う場合は規制の対象となり得ます。
- 正当な理由がないのに商品の受領を拒む場合であって、納入業者が今後の取引への影響を懸念して受け入れざるを得ないとき
- 返品条件について納入業者との間で明確な合意がなく、あらかじめ計算できない不利益を与える返品を行うとき
なお、取適法(旧下請法)においても、不当な受領拒否・返品行為は禁止行為として定められています。個別の取引において違反が成立するかどうかは、当事者間の取引上の地位・交渉の経緯・契約内容等を踏まえた具体的な分析が必要となります。
① 3分の1ルールについて
取引上の地位が納入業者に優越している発注者が、3分の1ルールを理由として一方的に商品の受領を拒否したり返品したりすることは、優越的地位の濫用として問題となるおそれがあります。
一方で、以下のいずれかに該当する場合は、正当な理由があるものとして問題とならない可能性があります。
- 納入した商品に契約不適合があるなど、納入業者に帰責事由がある場合
- 受領しない場合の条件をあらかじめ正常な商慣習の範囲内で合意している場合
- あらかじめ納入業者の同意を得た上で、受領拒否・返品によって通常生ずべき損失を発注者が負担する場合
② 短いリードタイムについて
発注者が短いリードタイムによる発注を行うことで、納入業者は生産コスト・輸送コストの増加や、正式な発注を待たずに製造を開始せざるを得ない状況に置かれます。そのような状況下で、
- 発注を取り消す際に製造費用・廃棄費用を支払わない
- 短納期による追加コストを考慮せず、通常単価をそのまま一方的に適用する
といった行為は、優越的地位の濫用として問題となるおそれがあります。
【参考:シャトレーゼに対する勧告事例(2025年3月)】 洋菓子の包装資材等の製造を委託する事業者が、下請事業者に対して、納入期日以降に必要に応じて納入を指示する方法で給付を受領していたところ、期日を経過しても商品を受領せず、下請事業者に無償で保管等させていたことが、旧下請法違反(受領拒否・不当な経済上の利益の提供要請)に該当するとされました。
十分なリードタイムを設けてまとめて発注するか、商品代金のほかに在庫保管の対価を別途支払う等の対応が必要と考えられます。
③ 日付逆転品の納品禁止について
日付逆転品の納品禁止を理由として一方的に受領を拒否・返品することは、優越的地位の濫用として問題となるおそれがあります。特に、日付逆転品の発生が納入業者の帰責事由によらない場合に、何ら協議なく受領を拒否し、返品費用・廃棄費用を納入業者に一方的に負担させる行為は、問題となり得ます。
④ 日付混合品の納品禁止について
日付混合品の納品禁止の慣行を理由として正当な理由なしに受領拒否・返品する行為は、優越的地位の濫用として問題となるおそれがあります。また、製造日付順の納品管理のための仕分け作業等について納入業者に過度な負担を強いる場合や、発注者自身が合意済みの発注ロットを守らず誤発注を行い、その処理を納入業者に対応させていた場合なども問題となり得ます。
⑤ 欠品ペナルティについて
欠品ペナルティが発生したことを理由として、金額や算出根拠について十分な協議を行わないまま制裁金(予定利益相当額・売上額相当の補償金等)を納入業者に負担させる行為や、代金から制裁金相当額を控除することで実質的な代金の減額を行う行為は、優越的地位の濫用として問題となるおそれがあります。
まとめ:今すぐ確認すべき事項
「業界の常識」は免責の根拠にならない 本報告書が指摘する5つの商慣行は、いずれも食品流通の現場に長年定着しているものです。しかし公正取引委員会は、「多くの納入業者が不満はあるが取引を継続したいために言えない」という実態を把握した上で、なお独禁法・取適法上の問題を指摘しています。
発注者(小売業者・元請卸売業者)の立場の方へ
自社の取引条件・取引実務の中で、契約書・口頭を問わず、以下の行為が行われていないかをご確認ください。
☐ 3分の1ルールを前提に、期限超過品を一方的に返品・受領拒否していないか
☐ 欠品が生じた場合に、理由を問わず一方的にペナルティを課す契約・運用になっていないか
☐ 当日発注・当日納品などの短いリードタイムを当然の前提として要求していないか
☐ 日付逆転品・日付混合品の禁止を理由に、協議なく一方的に受領拒否・返品・廃棄費用の転嫁を行っていないか
上記に該当する実務が見つかった場合は、契約条件の見直し・補償ルールの明文化・社内の発注ルールの整備など、早急な対応が必要です。
納入業者(製造業者・卸売業者)の立場の方へ
不当な返品・ペナルティ等の商慣行によって不利益を受けている場合、以下の対応が考えられます。
- 公取委への申告・情報提供:公取委は、業界に広く存在する問題のある商慣行に対して実態調査・勧告を行っており、個別の情報提供も受け付けています。
- 取引条件の書面化の要求:口頭ベースの合意を書面化するよう発注者に働きかけることで、後日の紛争における証拠を確保することができます。
- 専門家への早期相談:「不当な要求か否か」の判断や、交渉戦略の立て方については、独禁法・取適法に精通した弁護士への早期相談をお勧めします。
「自社の取引実務が独禁法・取適法上問題がないか確認したい」「発注者から不当な要請を受けているが対応方法がわからない」といったご相談は、お気軽にお問い合わせください。
著者情報
弁護士:藤井 健一
築地かなめ法律事務所 代表弁護士。
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