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下請法(取適法)の改正で何が変わったか
【免責事項】 本コラムの内容は、執筆時点の法令・ガイドライン等に基づき、一般的な情報提供を目的として作成されたものです。特定の事案に対する法的助言を構成するものではありません。 法律や実務上の運用は随時変更される可能性があり、内容の正確性や完全性を保証するものではありません。本コラムの情報に基づくいかなる行動についても、当事務所は一切の責任を負いかねます。具体的な判断にあたっては、必ず個別の事実関係に基づき、弁護士等の専門家にご相談ください。
はじめに
「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」(令和7年法律第41号)が、2026年1月1日に施行されました。改正後の法律名は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(中小受託取引適正化法。以下「取適法」)です。
今回の改正は、名称変更にとどまらず、対象取引の範囲拡大・事業者規模要件の追加・支払手段の規制・代金決定プロセスへの規律など、企業の取引実務に直接影響する多岐にわたる内容を含んでいます。自社の取引が規制対象となるかどうか、改めて点検が必要な局面にあります。
本コラムでは、企業の経営者・法務担当者が今すぐ確認すべき3つのポイントを整理します。
1 改正事項の概要
(1)特定運送委託が適用対象に
取適法では、顧客から委託を受けた物品を有償で指定場所に納品する際に、その運送を中小受託事業者の条件を満たす他社(運送業者等)に外注する行為が、「特定運送委託」として新たに適用対象に加えられました。
これにより、発荷主が顧客に供給する商品の運送を他社に委託することは特定運送委託として取適法の対象となり、発荷主には委託に関する事項の書面明示が義務付けられます。また、このときに運送事業者に対して無償で荷役や荷待ちを行わせる行為は不当な経済上の利益の提供要請に当たるおそれがあります。
自社拠点間の運送委託・自家利用目的の運送委託・半製品を自社倉庫に引き取るための運送委託は「特定運送委託」に該当しません。ただし、当該自社拠点間の運送が、取引の相手方に対して運送する際の経路の一部である場合は、特定運送委託に該当する点に留意が必要です。
(2)新たな事業者規模要件の追加(従業員数基準)
旧下請法では、取引の類型ごとに定められた資本金の額による区分(資本金基準)によって適用対象が定められていましたが、取適法では、資本金基準を維持しながら、新たな基準として従業員数基準が設けられました(資本金基準が適用されない場合に適用)。
具体的には、以下の場合が適用対象に加わります。
- 常時使用する従業員数が300人超の法人が、300人以下の法人または個人事業者に対して製造委託等をする場合
- 常時使用する従業員数が100人超の法人が、100人以下の法人または個人事業者に対して情報成果物作成委託または役務提供委託をする場合
従業員数基準への該当性は発注時点の「常時使用する従業員の数」(賃金台帳の調製対象となる労働者の数)によって判断され、一度該当した場合はその後の従業員数の変動にかかわらず取適法の適用対象となります。
従業員数の確認方法としては、書面または電子メール等の記録に残る方法が推奨されます。例えば、見積依頼書に「従業員数が300人を超える場合はチェックボックスを入れて返送してほしい」旨を記載する、または見積書の備考欄に「従業員数は300人を超えていない」と記載してもらう方法が想定されます。
(3)手形による代金支払の禁止
取適法では、委託事業者が代金支払の手段として手形を交付することが禁止されます。また、電子記録債権や一括決済方式など、支払期日までに代金相当額の金銭と引き換えることが困難な支払手段の使用も禁止されます。
資金繰り上の理由でこれらの支払手段を用いてきた企業は、支払期日以前に満期日・決済日が到来するものを使用するか、そうでない場合は別途金銭で代金を支払う必要があります。これに反した場合は支払遅延となります。
(4)協議に応じない一方的な代金決定の禁止(新設)
取適法では、代金決定プロセスに関する新たな遵守事項が規定されました。
労務費・原材料価格・エネルギーコスト等の高騰による費用変動が生じたり、納期の短縮・発注数量の減少等の取引条件変更があったりした場合において、中小受託事業者が代金に関する協議を求めたにもかかわらず、協議に応じず、または必要な説明・情報提供をせずに一方的に代金の額を決定することにより、中小受託事業者の利益を不当に害することが禁じられます。
受注者から値上げの申入れがあった場合など、協議を希望する意図が客観的に認められる場合も「協議を求めた」とみなされます。委託事業者としては、協議に誠実に応じることが不可欠です。
コスト上昇分に十分見合うような代金の引き上げを行う場合は、中小受託事業者の利益を不当に害する場合に当たらないと考えられます。
(5)製造委託に係る木型等の製造への適用拡大
旧下請法では、物品等の製造だけでなく、製造に用いられる金型についても適用対象とされていましたが、取適法では、さらに、専ら物品等の製造に用いられる木型・樹脂製の型・治具の製造委託が適用対象に加えられました。
(6)電磁的方法による書面交付の柔軟化
旧下請法では、中小受託事業者の事前の承諾を得た場合に限って電磁的方法(電子メール等)による3条書面の提供が可能でしたが、取適法では、事前の承諾の有無にかかわらず、電磁的方法による提供が可能になりました(取適法4条)。なお、中小受託事業者から書面の交付を求められた場合の交付義務も引き続き定められています。
(7)代金減額への遅延利息の適用
取適法では、代金減額が遅延利息の適用対象となりました。これにより、減額分については支払遅延と同様に年14.6%の遅延利息が付されることとなります。
2 取引適正化に向けた当局の執行状況
公正取引委員会による取引適正化に向けた執行は年々強化されています。「令和6年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組」(2025年5月12日公表)によれば、令和6年度の勧告件数は21件であり、前年度(令和5年度)の13件から増加となっています。
特に注目すべきは、金型等の無償保管を理由とした不当な経済上の利益の提供要請に係る勧告件数が、令和4年度1件・令和5年度3件・令和6年度9件と顕著に増加していることです。公取委がこの分野に対する執行を強化していることがうかがえます。
勧告は、企業名を含めて公表されるため、社会的信用の低下というレピュテーションリスクを伴います。また、取適法の下では、旧下請法と異なり、違反状態が勧告前に解消されても、特に必要があると認められるときは勧告の対象となります(トヨタ自動車東日本(株)に対する勧告事例(令和7年10月31日)では、受領拒否行為については勧告日時点では全て解消されていたので指導という措置となっています(ただし勧告対象行為である無償保管行為と一体不可分と評価された等の理由で公表された)が、取適法下では、勧告対象とされる可能性があります)。
3 委託事業者となる企業が採るべき実務対応
| 対応事項 | 具体的な内容 |
| ① 取引先の洗い出し | 資本金基準に加え、新たに導入された従業員数基準・特定運送委託を念頭に置き、取適法の適用対象となる取引先を改めて洗い出す。 |
| ② 書面の整備 | 適用対象取引について、法定事項を満たす書面(または電磁的記録)が存在しない取引がある場合、早急に整備する。既存の発注書・基本契約書に法定事項が記載されているか確認する。 |
| ③ 禁止行為の再チェック | 代金減額・不当な経済上の利益の提供要請(特に金型等の無償保管要請)・受領拒否・返品・不当な給付内容の変更・やり直し・買いたたき・購入強制等について、法令違反の認識なく慣例化した実務が行われていないか再チェックする。 |
| ④ 協議応諾体制の整備 | 中小受託事業者から代金に関する協議の申出があった場合に、誠実に対応できる社内体制・手続きを整備する。 |
| ⑤ 自発的申出の検討 | 違反行為の存在が疑われれば、速やかに社内調査を行い、早期に弁護士に相談の上、勧告を免れるために自発的申出を行うことを検討する。 |
まとめ
今回の取適法改正は、従業員数基準の導入・特定運送委託の対象化・手形払いの禁止・協議応諾義務の新設など、企業の取引実務に広く影響する内容を含んでいます。自社の取引実態を改めて点検し、適切な対応を早急に講じることが不可欠です。
取引先の洗い出し・書面の整備・禁止行為の再チェック・社内教育など、着実に実行することが、企業のリスク管理として求められています。
自社の取引が取適法の対象となるかどうかや、現在の実務に問題がないかについてご不明な点がありましたら、お気軽にご相談ください。
著者情報
弁護士:藤井 健一
築地かなめ法律事務所 代表弁護士。
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